------------------------------------------------------ 研究集会「精度保証付き数値計算法とその周辺」に参加して ------------------------------------------------------ 渡部 善隆 表記研究集会が京都大学数理解析研究所の短期共同研究(代表者: 九州大学大学院数理学 研究科・中尾充宏氏)として1999年10月18日(月)から20日までの3日間,同研究所115号室 において開催されました. 話題提供は15件,参加者は28人でした.研究会直前の急激な冷え込みに対応できず風邪 をひいてしまった人や,前夜,京都の銘酒の甘美な誘惑に負け,当日重い頭を抱えるご く一部の人を除き,みなさん元気に3日間を過ごされました.筆者は一話題提供者として 参加するつもりだったのですが,たまたま初日に中尾先生の次に会場入りしてしまった ため,設営(といってもプロジェクターをセットするだけです)を手伝った縁から,いつ のまにか実行委員(もどき)としてすべての発表を拝聴することになりました. 発表者を敬称略五十音順で紹介します.五十嵐正夫(日本大), 今井仁司(徳島大), 大石 進一(早稲田大), 太田有三(神戸大), 櫻井鉄也(筑波大), 篠原能材(四国大), 陳小君(島 根大), 豊永憲治(九州大), 長藤かおり(京都大), 藤野清次(広島市立大), 皆本晃弥(九 州大), 山村清隆(中央大), 山本哲朗(愛媛大), 山本野人(電気通信大学), 渡部善隆(九 州大). 講演順序は研究会初日に講演者と相談の上,決められました.形式は,講演時間おおよ そ30分,質問時間無制限,発表途中の質問・コメント歓迎というものでした.活発な質 疑応答によって一つの発表が1時間を超えることもあったものの,そのため昼食時間が削 られたり夕食時間が遅くなるというような京都で行なわれる研究集会としてはあっては ならない悲劇は起きず,活気ある雰囲気を保ちながら順調に進行したのではと思います. 講演内容は,多項式の零点問題,解析関数の因子探索,ロバスト制御,非線形方程式の 全解探索,線形方程式の高速精度保証,反復法の残差ベクトル選択,差分近似精度,固 有値問題,常微分・偏微分方程式の解の精度保証など,実に多岐にわたりました.詳し い発表内容は数理解析研究所講究録としてまとめられる予定ですので,ここでは個人的 な感想で研究会の雰囲気をお伝えしようと思います. まず,中尾先生のまとめの発言にもあったように,精度保証付き数値計算の研究が「曲 り角」にさしかかっていることを感じました.これは研究が行き詰まりを見せていると いう意味では決してなく,いかに説得力を持って理工学の分野にアピールし,かつ要求 に応えることができるかという「成果」が問われはじめているということです. これまでの精度保証付き数値計算では,区間演算・有理数演算あるいは不動点定理とい った「敷居」があるため,積極的な興味を持って入っていかない限り「どうもとっつき にくい」という印象を与えていました.研究会では,もっと計算の品質保証の重要さを 広く知ってもらうための,わかりやすいアルゴリズム,簡単なプログラミング,実用的 な計算速度などに着目した発表が特に参加者の興味を引いたように思います. また,理学方面,特に純粋数学に対するアプローチとして,理論的な結果と精度保証付 き数値計算の結果が実際に食い違ってしまったという深刻なケースの報告がありました. このケースでは,理論的な結果の証明に間違いがあったことがわかったそうです.しか し,精度保証付き数値計算の数学的な厳密さを本当に保証するためには,アルゴリズム だけでなく,プログラム,コンパイラ,ハードウェアの正しさをも検証し納得してもら わなければならないという,ある意味で「重い」課題を感じました. [この部分は都合で省略されている] 懇親会は2日目に北白川の居酒屋で開催されました.酒の席は楽しくあるべきで,仕事の 話や人の噂話はよくないという筆者の期待に応えて,大いにつまらない話で盛り上がり ました.ただし,予約の際に参加者の平均年齢を伝えて料理の種類と量を少し調整すべ きだったことを反省しています. 最後に,積極的な参加と討論による稔りある研究会を企画しただいた中尾先生に感謝い たします. *この報告の著作権は日本応用数理学会に属します。