学術会合報告 -------------------------------------------------------------------------------- SCAN 2000 / Interval 2000 渡部 善隆 -------------------------------------------------------------------------------- 標記国際会議が2000年9月18日から9月22日までの4日間,ドイツ・カールスルーエ市のカ ールスルーエ大学で開催されました.会議の正式名称は“9th GAMM-IMACS International Symposium on Scientific Computing, Computer Arithmetic, and Validated Numerics (SCAN 2000) jointly with International Conference on Interval Methods in Science and Engineering (Interval 2000)”です. カールスルーエ市はフランクフルト国際空港から電車で約1時間のドイツ南西部に位置し ます.中央駅は有名な温泉保養地であるバーデン・バーデンへの特急(ICE)の乗換駅にあ たることもあり,ドイツ国内からのアクセスは抜群です.街の中心部には荘麗な城(宮殿) が鎮座し,そこから放射状に道路が整備されています.主要な場所へは路面電車で移動す ることができます.また,歩道と並んで自転車専用道が確保されています.会場のカール スルーエ大学は城の周囲の広大な公園に隣接しています.わずかな滞在ながら,街の風景 に大学がよく溶け込んでいるなということを感じました. 国際シンポジウムSCANはほぼ隔年で開催され,科学技術計算における計算手法・アルゴリ ズム等について,特に数値計算結果の信頼性(品質保証)の観点から数値解析手法・プログ ラミング・ソフトウェア・理工学分野への応用例に関する研究発表および討論を行なう会 議です.今回は区間解析に関する国際会議であるIntervalとの共同開催でした.参加国は 開催国であるドイツをはじめ,アメリカ,イギリス,オーストリア,ロシア,ブラジル, フランス,日本,スペインなど,会議の組織委員長のKulisch先生の話によれば約30カ国 でした.4日間の会議期間中,午前中は一つの会場に全員が参加しての招待講演が12件, 午後は9月20日のバーデンバーデン・黒い森へのエクスカージョンを除き6つの会場に分か れて一般講演が165件組まれました.日本からは1件の招待講演,7件の研究発表がありま した.会議録は2001年の春に出版される予定です. 招待講演の内容は,新しい浮動小数点演算機構を備えたハードウェアの設計,浮動小数点 演算における丸め誤差の累積の制御方法,常微分方程式,最適化制御,カールスルーエ大 学におけるハイパフォーマンスコンピューティング環境など,多岐にわたり興味深いもの でした.日本からは,九州大学の中尾充宏教授が偏微分方程式に対する精度保証付き数値 計算の最近の話題について講演されました. 一般講演は6つの会場に分かれた並列セッションのため,興味のある発表が重複するとい うことがしばしば起きました.筆者が主に選択したセッションの中で,常微分方程式と連 立1次方程式の精度保証付き数値計算手法に関しては,新しい試みや提案の他に「○○さん の提案した手法」に対する前処理技法や改良,速度の比較などの発表が多かったように思 えます.その意味で,これらの分野では標準的な手法が定着しつつあるようです.今後は 計算速度も含めて実用面への成果が問われる段階に入っていくと思います.偏微分方程式 については,ドイツのPlum先生のグループによる解析的な取り扱いがこれまで困難であっ たある非線形楕円型問題に対し計算機を援用した解の存在証明に成功した研究発表や,同 じくドイツのStorckさんによる driven cavity 問題に対する精度保証付き数値計算の試 み(残念ながら仮定が幾つか入るため,まだ数学的に厳密ではありません)などが大いに参 考になりました. 一部セッションのキャンセルが多かったり国際会議に出すレベルとして疑問に思う発表も 少しあったものの,精度保証付き数値計算に関する研究の広がりと深まりを実感した会議 でした.次回は2002年にフランス・パリで行われる予定です. 【以下は自主的に削除した部分です】 % 多数の国からの参加者を迎えての国際会議を企画・運営するのは並大抵の苦労ではないこ % とですし,大いに参考になったことを感謝しつつも,気が付いた点をあげます.まず,講 % 演のキャンセル数が尋常ではなく,しかもそのことがセッションの座長に事前に伝わって % いないという事態が数多く発生しました.私の聴きにいったあるセッションでは発表予定 % 5件のうち3件発表者が現れないということがありました.どうやらドイツ入国に必要なビ % ザの関係でこのようなことになるそうです.また,前回のSCAN-98と比べて一般講演の数 % が飛躍的に増えたこともあるのか,発表内容のレベルの差が大きくなったことを感じまし % た.正直「う〜ん,こんなのを国際会議に出していいの?」という発表が少しありました. % 繰り返します.以上の感想は筆者が選択したセッションを通しての個人的なものです. *この報告の著作権は日本応用数理学会に属します。