渡部 善隆, 山本 野人, 中尾 充宏:
一般化固有値問題の精度保証付き計算とその応用,
日本応用数理学会論文誌, Vol.9, No.3 (1999) pp.137-150.


本論文では n×nの実対称行列Aと実対称正定値行列 Bに対する一般化固有値問題: A x = λ B x (λ∈R, 0≠x∈Rn) の固有値の絶対値最大の上界を精度保証付きで評価するいくつかの手法を提案する.

一般化固有値問題は微分方程式,差分近似方程式系の安定性,Markov連鎖, 経済理論,振動解析,主成分分析,熱伝導問題,化学反応系など,科学の分野に広く 現れる. また多くの場合Aが対称行列,Bが対称かつ正定値行列となることが 知られている. さらに固有値の絶対値最大を数値的に厳密に見積もることにより, 偏微分方程式の離散解と真の解との定量的誤差評価が 可能になるなどの応用例も報告されている.

高次の行列に対する固有値問題の直接解法は一般に存在しない. 現在広く使われている科学技術計算ソフトウェア: LAPACK, NAGライブラリ, IMSL, NUMPACなどで採用されている標準固有値問題 A x = λ x の計算方法は QR法, Householder-bisection法, Householder-QR法, Jacobi法, ベキ乗法, 逆反復法, Lanczos法 などである.一般化固有値問題に関しては,行列Bが正定値対称であるという 条件のもとCholesky分解により標準固有値問題に帰着させることが多い. 標準固有値問題を介さない解法としてはQZ法がよく知られている.

しかしこれらの手法はある収束条件を課した反復近似であり, その結果は(収束性・安定性の議論が十分になされているとしても)厳密に正しいとは いえない. 計算機による固有値問題の数値計算を精度保証付きで行なうためには, 浮動小数点演算によって発生する丸め誤差の見積りに加えて反復法の 打ち切り誤差をも考慮する必要がある.

我々は本論文において,Cholesky分解による標準固有値問題への変形を通して 固有値の絶対値最大の上界を評価する既存の2つのアルゴリズムを紹介し, それぞれを一般化固有値問題の特質に着目することにより計算精度・速度両面から 改良した方法を提案する. さらに各手法を計算機上に実装し性能評価を行って得られた知見を報告する. 数値実験では浮動小数点演算の結果を常に包含する区間演算ライブラリを用いた. 従って得られた数値結果は厳密に精度保証されたものである. 最後に応用例としてStokes方程式の有限要素解に対するa priori誤差評価定数 を厳密に評価した結果を紹介する.

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